2012年4月3日火曜日

【二次創作】バイオハザード:レクイエム・フォー・タイラント -Resident Evil : The Last One-



2002年4月20日 シカゴーーー某金融機関VIPルーム

スクリーンには青い目出しの頭巾を被った、男とも女とも判別しがたい背格好のスーツ姿の人間が政治家の演説台に似せた舞台でおしゃべりを始める様がプロジェクターから投影されていた。
映像は、2001年3月2日にインターネット配信された、あるテロリストの犯行声明である。

『聴衆諸君、私は同胞たちからはジェネラルと呼ばれている。事実、反アンブレラ主義者支援団体エンパイアーズの将軍職として実働部隊の指揮を執り行っている』

まるで軍歌を歌っているかのような勇ましい男性の声だが、変声期の可能性もある。画面はヘリコプターからの空撮映像へと切り替わった。惨劇の舞台。ベルリンの上空から。

『本日2001年3月2日、ベルリン裁判所へと護送されていたアンブレラヨーロッパ支部の営業所の広報部長……裏の顔は中東へのBOWの密売調定人、ヴォイジャー・ハインバルを拉致したのは我々だ』

覆面の怪人のナレーションをバックに、AK47で武装した総勢100人近いテロリストが明らかにアンブレラとは無関係の市民を虐殺してまわり、元アンブレラ社の幹部を護送トラックから引きずり出す一部始終がこの映像には収められている。
上空から映し出される市民への容赦無い銃撃は酸鼻極まるものであり、中でも画面の右端で胸ポケットに爆発物をねじ込まれた少年が逃げまわった末に路上で粉微塵になる場面からみても明らかにテロリストは殺戮を楽しんでいる有様であった。

『無関係の人間が大勢死んだと思うか?いいや、違う。我々の目的はそう、アンブレラの武力による“虐殺を経て”の廃滅なのだから』

「手こずった為に云々」「大義の為に云々」「正義を成す云々」などテロリスト社会特有の社交辞令的文面は無く、覆面の怪人はこの恐怖のビデオレターにて、単刀直入に虐殺を認めた。

次に覆面の怪人は懐から円柱形の錠剤の入れ物を取り出した。一見なんの変哲もない。が、ラベルには禍々しい傘のマークがあった。

『このアスピリン、アンブレラの製品だ。痛みを抑えるための薬。人類が、他人の痛みにも自分自身の痛みにも無頓着になりすぎた結果がラクーンシティーの悲劇だ!』

巨大製薬会社の暴走を見逃した人々の欺瞞をこの映像が初めて嘲笑った。

『此度、我々の戦果となったドイツ市民も聴衆諸君もラクーンシティーの悲劇までアンブレラの製品を購入し加担していた消費者だ。聴衆諸君の動かす世界はアンブレラを法の裁きにて処刑することを正義として、我々の行いはテロルとして処刑と見なさ無いのだろう?だが、違う、我々エンパイアーズは違うのだ。聴衆諸君……アンブレラに親や子を、愛する者をゾンビに変えられゾンビに喰われ、BOWに引き裂かれた故に咽び泣いた遺族たちの叫びに耳を貸さなかった聴衆諸君よ。貴様らが正義なら、我々は悪だ。アンブレラと同じ悪で、ある。そう今こそ悪には悪の鉄槌を!悪には悪の救済を!』

スクリーンは暗転した映像を暫く拾っていたが、間もなく「ビデオ信号がありません」と青い画面が投影された。

「……『GIジョー』のコブラコマンダーかよ。アンブレラどものギークセンスを笑えねぇな」暗室で男がスクリーンの中にいた覆面の怪人に対して履いて捨てるように言った。

プロジェクターを観ていたのは私立探偵のアーク・トンプソン。かつてアンブレラの企業城下町となっていたシーナ島で発生した人々をゾンビに変貌させてしまうTウィルスの汚染によるバイオハザードから生還した男だ。
彼はこの銀行のVIPルームでアメリカ大統領直属のエージェント、レオン・S・ケネディの招致により彼と密会を行なっていた。
レオンもラクーンシティーでアンブレラがシーナ島に先立って引き起こしたTウィルスによるバイオハザードの生存者である。
この二人は元々旧知の間柄であったがシーナ島の事件以来、直接会うのは4年ぶりである。

「エンパイアーズを名乗る反アンブレラを掲げるテロリスト、1999年末から活動を開始、2001年にインターネットでその存在を公言した」
「いまさらこんな物をみせてどうするんだ?俺の家にだってインターネットはつながる」
「実は、いま見てもらったのはインターネットに流れているものと違う。もぬけの殻だったエンパイアーズのアジトに運良く残されていた原版だ」

レオンはもう一度プロジェクターを再生した。

「もう一度ここを見てくれ。ジェネラルの後ろに一人、大男が控えているだろう?」

画面左奥にはトレンチコートらしいものを身につけた男の姿があった。暗がりでよく見えないが、周囲の物と比較するに身長は2mを超えている。

「こいつはよく覚えている……と、いうよりも忘れられん。T-103……通称、」
「量産型タイラント。かつてラクーンシティー、そして君が戦ったシーナ島で量産された生物兵器。アンブレラが実戦投入を果たした史上初のBOWだ。」
「2000年には全滅したがな。なにより、運用効率と製造リスクの点からハンターにとって変わられた。まさか生き残りがいたとは」
「タイラントだけではない」

レオンはトンプソンに一枚の写真を渡した。

写真に写っていたのは、皮膚病らしき腐食で全身の皮膚が穴だらけで筋繊維が露出し、頭蓋骨の隙間と眼孔から肥大した脳みそがはみ出し、棘の付いた棍棒のようになった肉塊のような四肢を持つ元は人間だったと思われるグロテスクな奇形体の死骸であった。

「リッカー?……になりかけだった元人間か?」
「そうなのだが、こいつはもともと、Tウィルスに感染したゾンビの成れの果てだ。ところがこの個体を発見した地域ではTウィルスの汚染は確認されなかった。この個体を調べたところ、2001年から行方不明になっていた元アンブレラ協力会社の清掃員のDNAと一致した」
「つまり人造のリッカー」
「その他にも人為的に蜘蛛やネズミ、爬虫類にTウイルスを投与してそれらのリッカーのような変異体製造の実験を行なっている形跡がアジト跡に残されていた資料で分かった。どうやら連中にはアンブレラのような複雑な遺伝子操作技術が無い代わりにTウィルスだけでBOWを作ろうとしている」
「まさか、あいつらは、アンブレラのTウィルスとBOWでアンブレラを討つと考えているのか?」
「テロリストによるバイオハザード。絶対に防がねばならない。たとえ標的があの死の商人であったとしてもだ」

ここでレオンが本題に入る。

「君への依頼は、現在このシカゴに潜伏していると思われるエンパイアーズの事実上の最高権力者“ジェネラル”の所在とエンパイアーズの人体実験場を発見することだ」
「なぁ、レオンよ。この件で脅威にさらされているのはアンブレラだけではない。テロリストどものアジトの環境でも容易に製造できるBOW、培養の水槽も要らない。檻だけで飼えるようなものが完成すれば、AKライフルや地雷のように世界中に分布してしまう……これも阻止しなければならない重大任務に民間である俺を雇う理由は?」
「公的機関の人間はアンブレラ派地下組織の持つブラックリストに入っている可能性がある。このリストが既にエンパイアーズの手にも渡っている。斥候として役に立たない。何よりも君が俺にとって一番信頼に足りる人格と実力を併せ持った人の一人だからだ。俺の数少ない友人であるし、何の援助もなくバイオハーザード発生地域から子供を二人もつれて脱出した実績を持つ人間は残念ながら君しかいない」
「つまり俺は斥候に徹すれば良い訳だな。何か解れば君に逐一報告する。だが、かつてのアンブレラのような巨大企業なら入り込める隙はあるが、相手はテロリストだ裏と表の隙間がない。期待ハズレにならなきゃいいが」
「君の腕は信用しているが後二人、既にこの街で調査を開始している。それぞれがそれぞれの方法でだ」

トンプソンには「探偵」のコードネームが、既にシカゴを調査中の二人は「バイカー」と「郵便屋」のコードネームが与えられていた。
3人での会合は基本禁止とし、後日レオンの指示で別々に顔合わせをするという手はずとなっている。
この3人は調査情報のやり取りを禁止されており、3人の情報はレオンの所属するホワイトハウスの司令部に統括される。
司令部は3人それぞれに必要かつ提供しても良い範囲の情報とその後の活動指針を電子メールで配信する。
これは、3者それぞれ独自の捜索による成果を期待する故の、独自性を保つための配慮であると同時に、3人で固まった方針で動けばエンパイアーズに動きを感づかれる危険性を回避するためである。
最初の顔合わせは有事の際の保険であるとレオンは説明した。
わざわざ3人を分け隔てる事を徹底している点に「ホワイトハウスの陰謀」らしいものを感じたトンプソンだったが、深入りは無用と詳しく追求することはなかった。

「俺達が、ジェネラルと実験施設を発見した後の守備は?」
「お俺の所属しているような合衆国政府とは違う“別の組織”が制圧に取り掛かる。当然、その詳細は明かせない」
「報酬は?」
「前金で5万ドル。成功報酬についてはジェネラルとエンパイアーズの施設制圧後、協議の後に配当する」
「……引き受けた」

トンプソンの返事にレオンは決意を新たに、最新型のブラックベリーをトンプソンに手渡した。
シカゴでの調査期間中、ホワイトハウス司令部と通信ができる特別の端末である一方で、ホワイトハウスと常に何らかの通信を行う“監視役”でもある。

「君は引き受けると信じていた。もう既にシーナ島の時と同じ口座に振り込んである。この後ロビーのATMで調べてみるがいい」

トンプソンはレオンに別れを告げ、地下のVIPルームを去ると、1階のATMから早速2000ドルを引き出してシカゴの街へと繰り出した。